一緒に暮らしていた配偶者が突然家出をし、行方不明になってしまった、配偶者の乗った船が事故に遭い、生死不明のまま時間だけが過ぎていく。
そんな時に利用できる制度が「失踪宣告」という制度。
この制度は特殊な状況に置かれた経験がないと知らない方が多いのではないでしょうか?
そんな失踪宣告についてまとめてみました。
失踪宣告とは、長期間生死が不明な人間がいた場合、ある一定の期間を過ぎると、その人物は法律上死亡しているものとして扱うことができるようになる制度で、家庭裁判所に申し立てることができます。
この制度を利用できるのは、失踪者と法的に利害関係のある人物だけとされています。法的な利害関係がある人物とは、失踪者の配偶者、財産管理人、相続人など。
失踪宣告を申し立てる主な目的は、生命保険金、各種手当ての受取り、相続の開始、婚姻関係の解消などが挙げられます。残された配偶者や家族がその後の身の振り方に困らないよう、配慮された制度といっていいでしょう。
失踪宣告には2つの種類があり、状況によってどちらの制度を利用するかが決まります。
一つ目が「普通失踪」。
これは家出など一般的に行方不明になった場合に適用される失踪宣告です。普通失踪の宣告を受けるには、まず配偶者の生死が不明であること、所在が不明であること、連絡先が不明であることが最低条件となります。
状況を考えると、ある日いつも通り出勤した夫が帰宅しない。会社に連絡しても会社はすでに退社していた。友人知人、夫の実家や親戚に連絡しても消息がつかめない。警察に連絡しても警察からの発見の報告がない。こんな時に利用できるのが普通失踪です。
普通失踪の場合、失踪者が失踪してから7年以上経過すると裁判所から失踪宣告を受けることができるようになります。
ただしこの7年間というのは、「所在不明」、「生死不明」となった時点から7年間です。もしどこかのタイミングで手紙や電話など連絡があり、生存が確認できた場合、その日が起点となりますのでご注意ください。
二つ目は「特別失踪」。
こちらは船舶や飛行機の事故、災害、戦争地帯への派兵などが対象となります。
かなり特殊なケースになりますが、確実に事故に巻き込まれた、戦地に行っていたことが証明できれば利用できる制度になります。
危難失踪の場合、「船舶が沈没した後」、「飛行機が墜落した後」、「災害が去った後」、「戦地の紛争状態が解消された後」から1年経過すると、失踪宣告を申請することが可能です。
船舶事故の場合、注意しないといけない点があります。
確実に船舶が沈没しているとわからず、その船舶が行方不明の間は、危難失踪の扱いを受けることができません。危難失踪が有効になるには、確実に船が沈没した証拠が必要となります。ではその失踪宣告ですが、どのように申請すれば受けることができるのでしょうか?失踪宣告は裁判所に宣告してもらうことになります。
そのため申請者は、ご自身がお住まいの地域を管轄する家庭裁判所に申請することになります。
申請する際に必要となる書類は以下の通りです。
つまり申立書と、失踪者との関係を証明する書類、そして失踪者が失踪していることを証明する書類などが必要ということになります。
この他に裁判所から、必要な書類を請求されることがありますので、適宜対応してください。 申請書類が受理されると、家庭裁判所で審理が行われ、さらに公示期間を経て宣告という手順になります。
宣告が出たら、10日以内にお住いの地域の市区町村役場に「審判書謄本」と「確定証明書」を提出し、失踪宣告の処理は完了です。
これで失踪者は「死亡した」と見做され、各種交付金の手続きや生命保険の受取申請が可能になります。
失踪宣告を申請する場合、多くはその配偶者が申請するかと思います。
失踪宣告が出された場合、婚姻関係はどのようになるのでしょう?
失踪者は「死亡認定」を受けるわけですから、配偶者に先立たれた人と同じ扱いということになります。
失踪宣告を機に籍を抜く、姻族との関係を終了させる、などを考えている場合は、別途手続きが必要となります。
ちなみに、普通失踪の宣告を受けることができる7年を待たずとも、配偶者不在のまま離婚裁判を起こすことは可能です。
法的に定められた離婚理由に、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」というものがありますから、それぞれの条件に当てはまる場合、離婚裁判を申し立てれば、かなりの高確率で離婚が認められることになります。
自分や家族を残して、勝手に失踪したような配偶者とはすぐに別れたいという方もいるかと思います。しかしそこは一度冷静になり、その後の生活を考えましょう。
まず、失踪宣告を待たず裁判で離婚をしてしまうと、死亡保険金及び遺産相続を受ける権利を喪失することになります。ただし、この場合は財産分与を受けることが可能です。
失踪宣告を受けた失踪者は「死亡扱い」を受けますので、失踪宣告を受けるまで保険料を支払った上で、保険会社に申請すれば、死亡時保険金を受け取ることができます。
また、失踪者に財産があれば、遺産相続が可能です。
財産分与の対象となるのは夫婦の共有財産のみ。
それに対して、遺産相続は、特有財産も含む配偶者の財産すべてが対象となります。
そのため、一般的には遺産相続を受けるほうが財産の金額は高くなることが多いです。
もちろん借金がある場合などはその限りではありませんから、よく状況を見て判断することが求められるでしょう。
もし失踪宣告を受けた人が、その後発見されたらどうなるでしょう?
失踪宣告を申請した人は、対象者が見つかった場合、その取消を申請しなければなりません。 また、失踪宣告を受けた時点で、死亡したことになり各種手続きをしています。
しかし取り消しとなると失踪宣告自体がなかったことになります。なかったことになるわけですから、失踪宣告で受けたものは返却する必要があります。
とはいえすべてを返す必要はありません。失踪宣告を取り消した時点で残っている分を返却すれば問題なく、その間に使ってしまった生命保険金などは返却する必要がありません。
仮に失踪宣告を受け、婚姻関係を終了していた場合、失踪者が帰ってきたらどうなるでしょう?
失踪宣告を申請した元配偶者が再婚をしていなければ、婚姻関係は以前のとおりに復活します。
もし失踪者が帰ってきた時点で、すでに元配偶者が再婚していた場合、再婚している事実の方が優先されるという解釈があります。
(専門家によっては、重婚状態となる、という解釈もあり、裁判所の判断に委ねられます。)このあたりは死亡保険金と同様です。
基本的には失踪宣告以前の状態に戻す必要がありますが、失踪宣告を取り消した時点で戻せないものは戻す必要がないとされる場合が多いです。
突然、配偶者がどこかに消えてしまう。
よくある話ではありませんが、まったく可能性がない話でもありません。
そんな時はただ待つだけではなく、法に則った方法で状況を打破しましょう。
失踪者を待つにしても、忘れるにしても、失踪宣告という手段自体は、頭の片隅に置いておくことをおすすめします。